二つの『スコットランド』、そして『時の旅人』。

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     ‘幸福すぎる人生を送るあまり、その音楽に深みがない’ふうな言われ方をされがち(?)な、ヤーコプ・ルートヴィヒ・フェリックス・メンデルスゾーン=バルトルディさん。

     しかし、その交響曲第3番『スコットランド』はとても深い情緒を延々と歌う。
     交響曲第3番と、序曲『フィンガルの洞窟』(ヘブリディーズ序曲)とは、作曲者が、16世紀に悲劇的最期を遂げたスコットランド女王メアリー・スチュアートへの関心、具体的にはホリルードの宮殿を訪れた印象にインスパイアされた、ということのようだ。

     メアリー女王の閲歴は、かかわる諸事件がもう複雑で、私には何がどうなっているのやら、説明など不能。マニアの人たちがたくさんサイトを作っているので、興味のある方はググればいくらでも出てくるし、書籍も多いだろう。

    クレンペラーの『スコットランド』、2種

     その、メンデルスゾーンの交響曲第3番『スコットランド』。
     世評で、抜かすことができないと言われるオットー・クレンペラー指揮の録音。ゆったりしたテンポで、悠然と盛り上げてゆくロマンの深さが圧倒的だ。

     この交響曲は、第2楽章を除いて全体に暗鬱な雰囲気を濃厚にし、メアリー女王の悲劇的最後に向かってゆくような暗さを基調としているけれど、終楽章のコーダで長調のコラールが姿を現わし、そのコラール(ファンファーレふう?)を高らかに歌い上げて全曲の幕を閉じる。

     しかし、知られているように、クレンペラー自身はこの最後に突然現われる明るいコラールは、楽曲にふさわしくなく、作曲者自身も疑念を持っていた、と考え、暗いまま終結するコーダを作り、これで演奏した録音が残っている。事情は、こちらなどが簡潔かつわかりやすい。

     独自コーダのヴァージョンで残されている録音のCDは、バイエルン放送交響楽団を指揮した1969年(クレンペラー、84歳!)のライヴである。
     ニュー・フィルハーモニア管とのスタジオ録音(1960年、マエストロ 75歳)のさらに9年後。

     いずれもリリースは EMIで、ライヴ盤のほうはショップ・サイトやオクでは、ものによってはトンデモ価格になっているが、ディスクユニオン店頭では、実際に売ることを前提にしているので、千円前後の価格で見つかる。

     この独自コーダのライヴ版(盤)については、宇野功芳氏は、「これ(ライヴ盤)は終曲の結尾を自作のものに変え、短調のまま淋しく終わる。その味わいは抜群で、両方とも(スタジオ盤と両方)持っていたい」(『クラシックCDの名盤』文春新書、新・旧版とも同文)と言及している。

     また、アマチュアのレコード評も多く掲載した、『クラシック名盤 この1枚』(光文社知恵の森文庫)には、この本の中でもとくに魅力的な文章を寄せている「安本弦樹」氏が、スタジオ盤を取り上げる中で、以下のように書いている。
     「第4楽章ではアレグロ・ヴィヴァーチッシモの表示には目もくれず、堂々としたテンポを固持するが、リズムのキレが良いので「遅い」という感じはなく、さらに雄大なマエストーソで曲は締めくくられるので、全体の充実感はこのうえない。ただし、コーダが雄大であるがゆえに、かえってこの最後の部分が冗長に感じられるという、この曲の構造的問題点をも浮き彫りにしているような気もする。
     クレンペラーはこの問題点に気がついていたからこそ、1951年のウィーン響との「スコットランド」では、第4楽章の指揮をとらなかったのだろうか。また、1969年5月23日のバイエルン放送響とのライヴ(EMI)では、短調のまま終わる自作のコーダを演奏したのは、一つの解決を示そうとしたのかもしれない(この最晩年の「スコットランド」もみごとだ。まったく緩みがなく、幻想的なまでに美しい!)。」
    (62頁)

     少し前、写真のとおりライヴのバイエルン盤を入手して、先日通して聴いてみた。
     私は個人的には、終楽章コーダの高らかに歌い上げるコラールが、そしてこのコラールで盛り上げて終わる『スコットランド』が大好きなので、クレンペラー「説」にはどうも違和感がなくもなかったのだが、聴いてみると、みごとに悲哀と暗鬱の中に、あたかもメアリー女王の悲劇そのままを描いたごとくに全曲を閉じる、その説得力は大きかった。

     では、少なからぬリスナーが、むしろ「不自然」と感じ、そしてクレンペラーの独自コーダが十分受け容れられるにもかかわらず、なぜあのようなコラールでの終結を、作曲者は残したのか。
     もちろんそんなことはわからない。

     閑話休題‥‥ではなく、以下がこの記事のもうひとつの素材なのですが…。
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    アルゲリッチ/デュトワのショパン‥‥マスタリング。

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       前記事で、アルゲリッチ/デュトワ/モントリオール響によるショパンのピアノ協奏曲第1番、第2番のCDを買ったことを書いた。

       ちょっとした風の吹き回し? で、岡崎マスタリングの EMIミュージック・ジャパンの24ビット・リマスター盤(TOCE-14003)を買ってしまった。
       オーケストラは懸念した EMIにありがちな混濁感がかなり回避されていたけれど、アルゲリッチのピアノ・ソロの、とくに高音の強打鍵で、耳にビリッと来るような刺激感が、ちょっとひっかかった。

       未練がましく Amazonやオク上を探し、海外EMIの、初出CD(CDC 5 56798 2)が送料入れて600円ほどで出ていたので、落札した。

      アルゲリッチ、デュトワ

       今日すでに届き、今さっきちょっと比較試聴してみた。

       第1協奏曲が始まり、一聴して海外盤のほうが高域が穏やかだ。ここは、岡崎マスタリングのほうが透明で、ディテールもよく聞こえ、岡崎マスタリングのほうがいいとも言える。

       4分ほどのオケの前奏が終わり、ピアノが入ると、海外盤はとても自然だ。高域の煌きが耳につくことはない。
       やっぱり‘日本流’マスタリングは楽器の音というものがわかってないのかな〜、と思い始める。

       しかし、第2楽章と第3楽章のそれぞれ冒頭部で比べると、海外盤のほうもピアノの音は厚みがなく、帯域バランスはナチュラルではあるが、それゆえ高音の精彩に欠ける。

       こんどは、第2協奏曲の第2楽章。
       4分ほど経過してからの、いったん静かになり、緊張が増してゆく部分。
       ここでは、海外盤は、私のシステムではピアノの音が精彩に欠けて無機的に響き、いいところなのに心が動かされない。
       国内盤は、ピアノの高音がキラめきすぎる嫌いはあるものの、アルゲリッチの集中がしっかり伝わってきて、「手に汗握る」感が十分にある。

       オーケストラのほうも細かい動きがしっかりと聞こえる。低弦のピチカートが少しボンつくようでもあるが、海外盤はこれがよりボワンと、締まらない音だ。
       第2楽章の終結部も、ピアノの心を込めた弾きぶりは国内盤がよく伝えるし、オーケストラの木管群とピアノ・ソロとのやりとりの、室内楽的な親密さを聴くことができる。
       反対に海外盤は、アルゲリッチのソロは曇った感じがつきまとい、終結部の管楽器はお団子になって混濁する。

       今のところ、どうやら岡崎リマスターの日本盤を採るのが若干ベターなようだ。
       比較の条件として、国内盤はアンプのトーンコントロールの高音を少し下げ、反対に海外盤は少し持ち上げて聴いた。このようにすることで、帯域バランスが同条件に近づくようだ。
       つまり、TOCE-14003を、高音をわずかに下げて聴くのがベスト、のような気がする。

      レーベル

       ― システムや、部屋、好みによってまったく一概には言えないけれど、EMIのデジタル録音の、とくにオケの混濁感を回避するには、岡崎さんのリマスターは、「やりすぎ」感を伴いつつ、全く無益でもないようだ。
       テンシュテットやラトルの、マーラーのライヴ録音では、岡崎リマスターが奏功している気がする。

       今回、海外盤を入手してエンジニアの名前がわかった。
       ジョン・ダンカリー John Dunkerlyだった。
       この人の手がけたものでは、Decca録音の、アシュケナージ/ショルティ/ロンドン・フィルによるバルトークのピアノ協奏曲第1番を持っている。
       1980年(アルゲリッチのほうは1998年)のデジタル録音である。
       録音場所が違うということがあるけれど、Deccaのほうは、もう冒頭から‘Deccaそのもの’の高精細音質で、アルゲリッチのショパンとは、通底するところは全然ない。

       EMIのデジタル音源で、岡崎リマスターの、完全な‘やりすぎ’でヒドい目にあったものは、アルバン・ベルク四重奏団によるブラームスの弦楽四重奏曲全集と、ポール・トルトリエによるバッハ:無伴奏組曲の再録のセットである。
       もともと鮮明な録音だったから、高域と倍音の強調で、ほんっと〜に耳障りな音質になっていた。もう手許にはない。

       混濁したオケ録音の‘修復’ならなかなか有効なのだが、そうでないものまでひたすら鮮明化するというところに、岡崎氏の感覚をどうしても尊敬しきれない部分が残る。

       さて、このアルゲリッチとデュトワによるショパン、今はワーナーによる国内盤がミッドプライスで出ていて、たぶんこれは「2016年最新マスター使用」とかになっていて、いちばんバランスとクオリティがよさそうな気もする(じゃ、なんで最初にそれを買わないの^^;)。
       全体としては、EMIのクラシック音源が Warnerに買収されたことはとてもいいことだと感じている。

       そしてこの演奏‥‥デュトワ指揮のモントリオール響がソロのスピードについていけていないところがある云々ということが言われたりするが、デュトワのバックは、しっかりとテンポをキープし、コンチェルトの基礎を押さえた磐石の演奏であり、やはりこの2曲のベスト盤と言っていいのだろう。
       両盤はしばらく聴き比べてからいっぽうを残そうと思う。
       いやはや、またマスタリング買い換え、でした‥‥;;。

      小説を1冊、読みました。& 愛読書。

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         ‥‥家にいる時は、ネット中毒、とくに ヤフオク! ないし Amazonでの‘CD探し中毒’であります。
         夕刻から夜にかけて家にいられる日にはちょっとオーディオでCDを聴くこともあるが、何といってもネットの比重が大。

         というわけで、転室前には、引っ越したら本を読もうと思っていたものの、読書はいちばんあとまわし。
         要するうに、ものを読むことがめんどうでしようがなく、「活字中毒」の逆人間なのである。

         そして、期待して読み、とりあえず通読しても、読んでいるあいだ、わくわくしたり、「面白い〜」と感じる本は、たいへん少ない。
         先日読んだ原田マハ『暗幕のゲルニカ』は、読み進めている間はなかなか手に汗握る冒険譚、だったのだが、最後の一文を読み終えるや印象が完全にゼロに帰してしまい、もう脳中に存在していない。

        『書店主フィクリー』と EMIのCD

         かなり時間がかかり、とぎれとぎれ読んで、やっと読み終わった小説は‥‥ガブリエル・ゼヴィンの『書店主フィクリーのものがたり』(小尾芙佐訳、早川書房、2015年)。

         島の書店主を主人公に置いた物語で、店に棄てて行かれた女の子を育てつつ、主人公とその周囲でさまざまに展開するお話。
         妻を失った主人公が血のつながりもない女の子を育てていくうちに再婚したり、いろいろ展開し、「人間のドラマ」としては『暗幕の‥‥』よりは格段に面白い。
         が、作中、本の話がよく出てきて、本(小説)が読者に「合う」、「合わない」という表現がされるのだが、この伝で言うと、この本は私にはあまり「合わない」ものだった。

         アメリカの現代小説というものに通底するのだろうか、記述のディテールがあっさりしていて、ムダな描写がなく、スピード感をもって進められる。
         これが私にはあまり合わないらしい。

         この作品は、各章の扉に主人公・フィクリーが実在の作品へのレビューを書き込むほか、さまざまな薀蓄がちりばめられているそうで、「訳者はつい「訳注」をつけたくなった」(「訳者あとがき」)が、煩雑になったのでやめた、とある。

         ところで、最初から2番めの扉の銘、「さあ、いとしい人よ、/たがいに敬い愛しあおう、/きみとぼくがいなくなってしまうまえに。/ ― ルミ」の「ルミ」が気になった。注も説明もない。

         「ルミ」ってだれ? 英語圏のネットを調べても、「come on, sweetheart let's adore one another before there is no more of you and me. — RUMI」が出てくるだけである。
         この「ルミ」は、思うに、イスラーム学の権威・井筒俊彦氏によって『ルーミー語録』などの形で紹介されている、イスラーム・スーフィズムの詩人ルーミー(1207〜1273)に違いあるまい。
         このことを突っ込んだ紹介記事、ブログ記事、レビューを、寡聞にしてひとつも見たことがない。これはちょっと異常に感じる。

         Amazonの商品説明にあるとおり、この本は全米図書館員が運営する“Library Reads”に選ばれている
         こういうタイプの“お墨付き”に、書店員の団体による推薦、日本では「本屋大賞」みたいなのがある。
         そういう1冊だった、ジェリー・スピネッリ『スターガール』(理論社。現行は角川文庫)を読んだ時は、もう形容もできないほどのつまらない文体と内容に、辟易したのだった。
         この本は「全米書店員が選ぶ2000年いちばん好きだった小説」とのこと。ええ〜!? さっすがバカ大統領を選ぶ国だけある‥‥ってそのあとにはオバマを選んだのか^^;;。

         私は、活字を追うのはキライでありながら、せっかく読むのなら描写の精緻なものを好む。
         イギリスの児童文学、たとえばアリソン・アトリーの『時の旅人』(岩波少年文庫。初めて読んだのは別の訳で、評論社版)のような。
         ネット上ではいっしょに紹介されることも多い、ジョーン・ロビンソン『思い出のマーニー』(岩波少年文庫、上・下。‘日本化’したアニメは未見)も、ディテールの表現がきわめてていねいだ。
         これは、あの、映画『この世界の片隅に』の描写の精緻さともつながるものだ。
         こういったものを楽しんでしまうと、スピネッリはもとより、今回のゼヴィンの文体も素っ気なさすぎた。

         イギリスの「時間を越えるファンタジー」タイプの児童文学では、他にフィリッパ・ピアス『トムは真夜中の庭で』(岩波少年文庫)も秀作だ。
         これらは、ユング心理学の河合隼雄氏の本で知ったはずである。ユング系の本はまた別に挙げよう。

         ‥‥CDのほうは、オイストラフのベートーヴェンと同じシリーズの、アルゲリッチ/デュトワによるショパンの協奏曲を。
         これも岡崎氏のリマスターで、元盤のレビューに、残響がやや過多でオケが混濁する、というようなのがあったので、岡崎流のビシッとしたリマスターで輪郭が明瞭な音が聴けるか、と思ったのだが、ピアノの音の、高音の強打鍵が耳にビリッとくる部分が無きにしもあらず。
         送料込み664円だったので、とりあえずこれで?

         ‥‥さて、今まで読んだ本を思い返し、量的にじつに微々たるものであるだけでなく、「楽しく、面白く」読んだ本は、きわめて限られた、そして偏ったものだ。

        愛読書^^;

         小説類からいくと、まずはウンベルト・エーコの『薔薇の名前』(上・下、河島英昭訳、東京創元社、1990年)。こ〜っれはすばらしい。が、ストーリーが面白いというものではなく、全篇に満ち満ちたペダントリーに惚れ込んだのだろう。

         これに似た、西欧文化の香りの染み込んだペダントリー…では、やはりジョリ・カルル・ユイスマンスの『さかしま』(澁澤龍彦訳、河出文庫。読んだのは桃源社版)。
         その名訳をものした澁澤さんの創作『高丘親王航海記』(文春文庫)は、日本人の作家が描くとほとんどの場合‘臭く’なってしまう、異国の光景・文物・人物、そして架空の生物の、みごとにファンタスティックなこと!
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        ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲、など…。

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           ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の手持ちディスクが、シェリング/シュミット=イッセルシュテット盤だけなのでちょっと淋しく、先日アッカルド/ジュリーニ/ミラノ・スカラ座フィルのディスク(Sony Classical、米プレス)を、激安出品だったこともあって、ポチってみた。

           この記事にもう触れているけれど、ディスクの音全体が、どうも潤いに欠け、耳につく音がするのである。
           Sony Classicalの、ジュリーニ/スカラ座によるシリーズは、『田園』だけいちど聴いたことがあるけれど、もっと柔らかな音だったように記憶する。
           何より、‘美音’で知られるアッカルドの音が、若干ではあるがとげとげしい。

           SBM使用の20ビット録音という記載があるけれど、SBMは金属的、と決まっている感触はない。
           どうも、ちょうどオーディオ機器における個体間のバラつきのような現象のような気がする。

           CDで、マスタリング、プレス元が同じものでさえ、こういう事象はある。
           アンドラーシュ・シフ、塩川悠子、ミクロシュ・ペレーニのトリオによるシューベルトのピアノ・トリオの2枚組アルバム(Warner/Teldec)は、ぺレーニの音がややギスギスした感があったので、当時は収入も潤沢にあったので、同じものを買って比べてみた。

           すると、音質はほぼ同じで、ペレーニのチェロがギスギスするのは収録自体のキャラだということで納得したけれど、同一ディスクの異なる個体で、CDプレーヤーのメカが発する機械音が、違った。
           ピット成型等の状態がわずかながらでも異なるゆえに、サーボのかかり方が明らかに違っているのだった。

           ‥‥ということだと考えても、入手したアッカルド盤を聴き続ける気は霧消した。
           演奏面でも、ジュリーニの遅いテンポ設定とオーケストラのスケールの大きな鳴らしっぷりは、『英雄』あたりにはぴったりなのだが、ヴァイオリン協奏曲は、そういう性格の楽曲ではないという気がする。

           もう一点、アッカルドとジュリーニのキャラが、そうとう異なるのではないかということ。
           カデンツァなどの技術的難所ではまったく揺れを見せないアッカルドの技巧なのだが、むしろジュリーニのゆ〜ったりしたテンポに合わせざるをえないところで「お〜っとっと…」という感じで、音程が定まりがたそうな雰囲気を見せるところがある。
           これは、ある意味面白い。たぶんセッション中、両巨匠は和気藹々だったろうと推測できるけれど ― グールドとバーンスタインみたいなことにはならない ― 芸風のズレは埋まらない。

           どうも、このディスクは売るのも憚られ、残念ながら廃棄しようと思う。

          ヴァイオリンのCD

           そこで、なのだが、今度はオイストラフ/クリュイタンス盤を、オク上に安い出ものを見つけてぽちった。
           今日、到着。
           東芝EMIが、EMIミュージック・ジャパンに改称してからの、「EMI CLASSICS BEST100」という、青い帯で、「24bit最新リマスタリング」を謳った1,500円のシリーズの1枚である。

           東芝が手を引いて EMIミュージックになったあとのリリースでは、「リリー・クラウスの芸術」の1枚を持っており、これには Yoshio Okazakiの名はない。岡崎さん、もう引退かな、と思ったのだけれど、今回のオイストラフ盤には「Remastering Engineer:Yoshio Okazaki」とあった(笑)。しかも、原録音のプロデューサー、エンジニアの記載はない。

           これでちょっと落胆したせいもあるかもしれないが、オケ、ソロともヴァイオリンのハイエンドが、やはりちょっとザラつく感触がある。
           が、以前の「HS2088」を銘打ったものとはかなり異なり、テープヒスは低く、マスターテープを EMIに再請求した可能性もありそうだ。
           が、やはり、現在日本の Warnerが出しているディスクを買うべきだったか、とも思う。

           上の写真で右上にあるのは、ずっと前に買っているシェリング盤であるが、これが、3枚の内ではヴァイオリンの高音が最も滑らかに聞こえる。
           このシェリング盤も、「クラシックCD文庫」盤はやや音がザラついたので、「Super Best 100」盤に買い換えている

           当分は、EMIミュージック・ジャパン盤を聴いてみましょうか‥‥今さきは、まだ第1楽章冒頭を聴いただけである。

           ことほど左様に、ディスクの選択は、録音・マスタリング、さらに個体バラつきまで含めると、実にむずかしい。
           オーディオ機器ならば、パーツ交換や組み合わせによる改善が期待できるが、LPでもCDでも、できあがった「レコード」は、どうしようもない。

           もちろんある程度は、トーンコントロールや、機器を換えるなどで変化は得られる。
           今回、久しぶりに Sony CDP-XE700の電源を入れてアッカルド盤を再生してみた。
           すると、オーケストラの低弦やティンパニなどは常用のオンキヨー C-7030よりもずっと深みと存在感があって、ハイファイ度が高いことを実感させた。

           CDP-XE700は、オペアンプが、音がキツめな AD712のままなのだが、たいへん立派な音を聴かせる。
           時間が取れれば、早く NJM2114Dに交換したいのだけれど、‘ほぼ失業’のはずの2月後半〜3月中盤に少しお手伝いの仕事が入ったもので、また遠のきそうである;;。

           左上のは、協奏曲ではなく、ローラ・ボベスコ、ジャック・ジャンティによる、フランクとルクーのソナタ、千円の国内盤が送料込み470円で出品されていて、1回目の終了でだれか落札してしまうだろうと思ったけれど、だれもポチらなかったので、その次の終了でポチらせてもらった。

           帯つきの美品であり、ただ帯の「¥1000」の表示が、紫地に白字のところ、紫はすっかり褪色していた‥‥こんなのは問題ない。
           こういうものも、多くの出品者は1,000円以上、人によっては2,000円以上の開始価格で出品している。
           個性派ヴァイオリニストの場合にこうなりやすいが、通常のCDの場合、こういう高価な出品にはだれも入札することはなく、サーバーのこやし、ないしはゴミと化している。

           他方、安い出品は、帯もない国内盤、そしてセット商品のバラの残りものが山のように出ていて、わが国において音楽CDが十分豊かな形で流布することがなかったのだなあ、としみじみ嘆息してしまう。

           ‥‥それは置いといて‥‥ボベスコの日本録音のソナタ、すばらしい演奏だと思う。
           1981年、新座市民会館での収録。ボベスコ女史62歳ということになり、この人のテクニックは本物ではなく、一流とは言えないという評が定着しているけれど、年齢を考えてもそうでもないのではないかと思う。

           このCDは、ルクーに期待して買った。音がとても美しい。ルクーのソナタはグリュミオー盤がベストと言われるので、いちど聴いてみたけれど、どうも高域の滑らかさがあまり感じられないのだった。とくに、24 bitリマスターのCDは、潤いがなかった。
           今、通常盤を聴いたなら、またそのよさがわかるかもしれないけれど。

           アッカルドのベートーヴェンをがんばって聴いたあと、ボベスコのフランクを聴いていたら、感情はゆったりしている状態で、涙が出てきた。単に涙腺が涙を放出したのであって、感動したというのではない。入眠直前に涙が出る、あれである。
           つまり、ボベスコのヴァイオリンを聴いていて、当方の神経がとてもリラックスした、のだろう。
           この人の音と演奏には、そういう「徳」があるのか…。

          リパッティ到着。

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             リパッティ! 来ましたぁ〜。

            リパッティとペルルミュテール

             ショパンのワルツ集は、ARTリマスター盤、英EMI“Great Rcordings of The Century”の、エンジェル・マーク・ヴァージョンとニッパー犬マーク・ヴァージョン(後者のほうがレア)とある中、ニッパー犬のほう。Amazon中古でたいへんきれいなディスクが、送料込み650円。

             “Great Pianists of The 20th Century”(PHILIPSなのだが、PHILIPSのロゴはほとんど見せない)のほう、これは、かのシューマンとグリーグの協奏曲が収録される上、バッハのパルティータ第1番と『主よ、人の望みの喜びを』、モーツァルトのイ短調のソナタなどが入って、お買い得の2枚組である。
             国内の Amazonとオクでは2,000円近い出品しかなく、海外盤でよいので、英Amazonのいちばん安い出品をポチリ。

             このシリーズ、海外盤は厚紙のスリーブに直接ディスクを滑り込ませるタイプなので、海外のユーザーの場合、たいていの場合そこそこ擦りキズをつけているかと思われたけれど、聴ければいいか、とポチリ。送料込み880円也、であった。

             思ったとおり信号面全体に擦過感と、皮脂にカビのついた点などが見えたが、水とアルコール(無水アルコールだけでは、カビが取れない)を染ませたティッシュで軽く拭いてプレーヤーに。再生はOK。

             次いで、「今回は断念」と書いていた、ペルルミュテールの、ワルツ集もオクでポチ。
             1962年録音の、コンサートホール録音の DENON盤である。

             リパッティ。と〜にもかくにも生まれて初めて聴く。
             1950年録音のショパン:ワルツ集は、巷に言われる‘歴史的名演だが、どうにも録音が古い’ということがまったく当てはまらないほど、厚みと重みのある、存在感のきわめて大きな音質で収録されていて、いったんCDプレーヤーのプレイボタンを押したら、止められなくなってしまうような、とめどなく音楽が溢れ出してくる演奏である。
             聴いてよかった。

             PHILIPSの“Great Pianists”(音源はもちろん EMIで、ライセンス・リリースであり、EMIのロゴもあり)から、2枚めの頭に、ぜいたくにシューマンとグリーグのコンチェルトが続いて収録されているのを、通して聴いてしまった。
             シューマンは、“例の”の修飾つきでも言われる(?)、『ウルトラセブン』最終回のBGM。ほんとうにこの音源だったらしい。

             そういうことも忘れて聞き手を没入させる異様な集中力の凝集した演奏だ。
             グリーグの強打鍵はすさまじいもので、「いつもこんな弾き方をしていたら、だれでも身体を壊すんじゃないか」とも思った。

             2曲のコンチェルトの ARTリマスター盤は、それぞれショパンやモーツァルトとのカップリングのようであり(実際にはシューマンとグリーグをカップリングしたART盤も、国内盤で出ていた)、2曲をカップリングした英Dutton盤のマスタリングは評判がいまいち、そこで、元レーベルとは一味違うマスタリングだといわれる“Great Pianists”(『New York Times』のサイト内らしきところにレビューあり)が、リパッティの名演が2枚に収まっている上に独自リマスターも期待できる、ということで選んだのだが‥‥。

             全体に、EMIの ARTリマスターのほうは、SP原盤の針音などは適度にフィルタリングしつつも、広帯域・高情報量を志向していて、明瞭な音質である。
             “Great Pianists”のリマスターを全て監修した Alfred Kaineという人によるほうは、EMIの ARTより高域をロールダウンしたように聞こえる。SP原盤の場合の針音はさらに抑制が強い。
             これだと、快適さを求めすぎてリアリティが減殺され、とくに日本のオーディオ・マニアには評価が低くなりそうな音なのだけれど、これはこれで、分厚い中域の存在感がたっぷりとあって、‘いかにもピアノ’という音がする。

             厚紙スリーブが直接接触するのが気になれば、ディスクユニオンなどで‘前方後円墳’型の内袋を買って入れるといいが、厚紙ウォレット・タイプのものなどは、「重力方向に信号面が向かないように」して収納するように気をつけているので、このままでもいいかも。
             “Great Pianists”の全貌の確認には、こちらが至便!

             それにしてもこの3枚のディスクに収められている‘音楽’の、どれほど豊かなことか。

             そして、「ステレオでは、繊細な表情と洗練されたフレージングの美しさで語りかけるように弾くペルルミュテール(Con)のワルツがすばらしい味わいをみせた演奏です」という小林利之氏の文言が頭を離れず、けっきょくポチってしまったペルルミュテール、コンサートホール録音のショパン:ワルツ集。

             これもまた、リパッティの緊張とはまったく違う方向ながら、ひそやかな抒情を湛えた、香り高い演奏が続く。

             コンサートホール・レーベルには、前奏曲集、ワルツ集、それに『幻想曲』、『舟歌』などを入れたショパン名曲集の、どうやら3アルバムがあるらしい。
             コンサートホールの国内盤CD、つまり日本メール・オーダーのリリースしたCDは、前奏曲とワルツを1枚に収めたものと、『幻想曲』などの名曲集の1枚になっていたようであり、いっぽう日本コロムビア=DENON盤では、前奏曲とワルツをそれぞれ1枚ずつ出し、名曲集はこの2枚のフィルアップとして分散させたようである。

             かつて日本メール・オーダー盤の名曲集を中古で買って持っていた記憶があり、強音部分で音割れが耳についた。
             この DENON盤は、広帯域を目ざしすぎてテープヒスがやや出てくるけれど、ピアノの音は透明で美しく、こちらがいいことは間違いない。

             CDでは、日本メール・オーダー盤と日本コロムビア盤のほかには、前奏曲とワルツ集を収録し、その他のショパンは入れず、2枚めにベートーヴェンの『皇帝』を収めた Scribendum盤がある。
             『皇帝』はモノ録音で、「ペルルミュテールの芸風で『皇帝』はちょっとな〜」と思って選ばなかったのだが、これがなかなかの名演らしく、指揮者のヴェヒティンクという人も気合の入った演奏をしているとか。

             アリス・沙良・オットのワルツ集も、いい演奏なのだが、曲を聴き進むごとに感銘が深まってゆくかというと、残念ながらむしろやや「飽きてくる」ところがある。
             彼女の、このアルバムの自己紹介的な映像(DVD付属ヴァージョンのCDは、確かそのDVDに収録?)は YouTubeでも一部が見られ、海外盤のデジパック・ジャケット見開き部分にある、港のクレーンのレールの間で演奏するという演出の意味が語られていたようだ。
             港は、実際にポーランドのグダニスクの港らしく、祖国を離れて二度と戻れなかったショパン、という、やや政治性も帯びたメッセージを動画から感じ取れるのだけれど、その鋭角的な感覚は、演奏にはまるで現われてこないのが不満といえば不満だ。

             ペルルミュテールは、その意味では政治性などかけらもない芸風なのだが、彼は現・リトアニアの、カウナスが生まれ故郷だそうだ。
             カウナスは、戦時中、ここの日本領事館で、“あの”杉原千畝が、ユダヤ人のために必死でビザを発給し続けた地である。

             ショパンのほうはと言えば、父はフランスからポーランドに移った‘移民’であり、ショパン自身はポーランドへの愛国心が強固でありながら、フランスに移り住んで二度と故国には帰らなかった、という人だ。

             西欧音楽の作曲と演奏の白眉は、西から東、東から西へのとどまることのない、多くの場合本人たちには不幸な「移民」の波の中に生まれてきている、ということなのか‥‥。

            LED電球、どうなの?

            0
               玄関の電球、入居時から電球型蛍光灯になっているのだが、ちょっと暗くなってきた感じがするので、規格を確認して新調‥‥あるいは、この機会に(靴なみにゼイタクをして^^)LED電球に換えてみては、とも考えた。

               で、ネット上をまた検索していたのだが、ちょっとまて!
               こちら(アイリスオーヤマ)は、「すぐ切れた」という酷評、あるいはよりブランド知名性の高いパナソニックのこちらには、筐体が焼ききれた、というような事故が、少数派ではあるが報告されている。

              LED電球トラブル


               トラブルがないとは思わなかったけれど、世論的に「エコ面でも家計を考えても、これからはLEDだ、換えていきましょう!」的な流れからすると、ちょっと予想外の情報である。

               さらにググると‥‥
               『J-CASTニュース』の「LED電球「10年もつ」に疑問の声 「また切れた」の声続出の理由とは」が見つかり、オデオ好きとして、これはちょっと面白く読んだ。

              LED電球、J-CASTニュース

               曰く、「各部品をチェックした結果、電球の発光部には問題がなかったが、基盤(ママ)部分の「電解コンデンサー」というパーツが熱で故障していた。」

               上に画像で掲げた、アイリスオーヤマ・ブランド製品へのレビューでは、なんとトップカスタマーレビューが☆ひとつ。
               曰く、「内部回路はリニアテクノロジーのLEDドライバが入っていて、冷却用にシリコーングリスが大量充填されていました。
               搭載されている各部品の半田付けを見て唖然。機械による物では無く、明らかに素人の手ハンダであり、濡れが不十分でランドが見えていたり芋になっていたりとひどい状況です。
               故障の原因を探るため、各部品が表記の定格であるか計測していった結果、コンデンサが異常でした。‥‥」


               この人、オデオマニアかも知れん(笑)。
               あとは略したが、電解コンデンサーは105℃品を使うべきだが、85℃品が使われていた、と、もっともな指摘、かつ「あるかもな〜」的事象である。

               こういうのを見て、とりあえず‘切れた’ら、電球型蛍光灯にしておこうかと思った。

               ある意味、LED電球というのは、「光を出力するアンプ」なのである。
               小型化を急ぐばかりで、パーツ実装のノウハウが十分でないまま、それも中国の工場に十分伝わらないまま、あちらの拙劣なハンダ技術などが相俟って、理想とはずいぶん違う現状が出来しているのだろう。

               小さい筐体に故障しにくいハードウェアを作り込み、仕上げるのは、戦後日本のエレクトロニクスの身上であったわけだが、それがもはや求められなくなってきて衰退しつつあると同時に、その企業内のノウハウの継承も発展もしがたくなっている、というような‥‥。
               しかし、実際にはその辺のクオリティが消費者の手元で使われる製品のよしあしを決定する。

               ‥‥こういう理屈を言っても何も始まりそうもなく、とりあえずLED化は見送り?

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