よそ様の意見を、いわばお墨付きのようにして機器を評価するのは主体性に欠けるとはいえ、やはりそれなりの評価の多い機器はそれなりに見る・聴くべきものがある、とは思う。
パナソニック SL-PS700について、ネット上にその讃辞を追うと‥‥
こちら(下のほう)には、「今の普及価格帯のCDプレーヤーとは比べものにならないほど力強く輝かしい音」とある。
こちら(こちらも下のほう)には、「この音を聴くと、定価がまるで嘘であるかのように思われるから面白い。未体験で、興味がおありの方には是非一度お試しいただきたく思う」と。
はいはい、仰せにしたがって入手しました。
こちらのページでは「SL-P700」と、「S」が一つ抜けている。テクニクスのCDPには、1字違いで別の機種の型番としてるものが多く、じつにややこしい。
SL-PS700の1世代前、MASHが本格化した機種が SL-PS70であり、後発のハイコンポ・サイズの SL-P70は「S」がひとつないだけである。
この2機種とも、いまだかなり評価・人気のある機種なのでなおややこしい。ファンの誤記はメーカーの所為(せい)でもある。
SL-PS700にもどり‥‥こちら(真ん中辺)には「2013年現在、未だに通用する音。‥‥ LUXMAN DA-100ともブラインドで違いが見抜けない」とある。
かの Lampizator氏のページでも「I seriously recommend it to everyone. Buy it while it is so cheap」と絶賛(本機は海外では Technicsで出ている)。
Audioreview.comの本機ページにはたった1件のレビューしかないが、このレビューアーは発売時に買って投稿したのではなく、2007年に eBayで求めている。
先々週の日曜、アバド/シカゴによるマーラー:交響曲第2番『復活』を、SL-PS700で通して聴いてみようと思い、第4楽章(‘Urlicht’)までネバってみたけれど、オケは線の細い感じがぬぐえず、音場も浅く、メゾソプラノが耳にビリッとくるに及んでリタイアし、「やっぱり音はアカンか〜」と落胆した。
が、ネット上の上記のような讃辞は頭から離れず、ネットオクで付いてきた電源コードはメガネ端子側が3A定格だったこともあり、エレコムの7Aコードに換えて、今夜、第2楽章だけ省いて聴き直してみた。
SL-PS700の音に耳が慣れてきたのでもあろうけれど、弦のユニゾンは音が薄いながら、ちゃんと大勢で弾いているザラつき感がある。
バックグラウンドのノイズ帯域が抑制されている感じなので、通常のアナログ録音のテープ・ヒスは他のCDPより聞こえないようだ。
そのためか、楽器が演奏されていない位置には、誰もいないような感じになり、全体の音場の存在感はあまりない。
が、楽器が奏される際の、位置的な違和感はなく、自然な感じだ。
ちなみに、この音源で女声が耳にビリッと来るのは他のCDPでも同じだった。
音色は、バーブラウンのDACが、マルチビット、1ビットともに蛍光灯でいう「昼光色」の印象だったのに対して、白熱灯の感じだ。
これは CD5000もそうなので、同系統の、暖色系の音だけになった感がある。
ティンパニの打ち込みや金管の咆哮の迫力などは、そこそこ出るけれども、際だったリアリティはむしろ押さえて、全体のバランスを重視する音作りだ。
この音源は、たしかにこのCDPにはあまり合っていないようでもある。
けれども、アバドの演奏自体が白熱や深刻といった方向性ではないので、ハイファイ的に高精度に再生すると、かえって薄っぺらく聞こえる演奏でもある。
この演奏の個性は、若かったころのアバドの‘歌’に満ちていることだろう。その特長を味わうには、SL-PS700で聴くのもまた味がある。
今までこのアルバムは、ウィーン・フィルを振った第4番が本命で、これがO.I.B.P.リマスターされたので購入したわけで、『復活』はフィルアップで入っているからしようがない、というものだった。
『復活』を本気で聴くなら、ワルターかクレンペラーで、と考えていたが、この音でアバド/シカゴ響の『復活』も、‘感動する‘というのとはやや違うけれども、聴く価値はある、と思った。
家での「レコード・コンサート」(笑)の最後に、バッハの『ゴルドベルク』の最後に再演されるテーマ(演奏はグールドかテュレックで)、または「主よ、人の望みの喜びを」(高橋悠治、『Yuji Plays Bach』)をかけて「しめ」にすることがある。
この『Yuji Plays Bach』(DG、ただし日本制作)は、1975年という、もうまもなくデジタル時代になるという時期なのに、同時期の独DG録音のポリーニやアルゲリッチのレコードに比べて、著しく混濁感があって、音楽性にも乏しい、と感じる。
これは、SL-PS700で、それなりに味のある音に再現され、よかった。