ネット上散策の恩恵、かつ副作用でもあるが、気になるオペアンプがあって、秋葉原店頭価格は52円〜73円、それ1個のために800円以上の電車賃を使ってしまった。
そのオペアンプというのは、テキサスインスツルメンツの TL072CPというもの。JOEMEEKというマイクロフォン、スタジオ用機材のメーカーのFAQに、このオペアンプに関する
コメントがある。
曰く:
「…我々は多くのオーディオに特化したICよりも、TL072の方が遥かに自然なサウンドを実現するオペアンプであるという結論に至りました。NE5532の方が全体的にパワーがあり、低域はもう少しソリッドですが、中高域の輪郭に欠け、採用するには厳しいものでした。」
原文は
ここだ。「NE5532の方が‥‥中高域の輪郭に欠け、採用するには厳しいものでした」とある部分は、「NE5532 ‥‥ is slightly harsh and lacking in detail in the upper mid」であり、邦訳では「slightly harsh(少し音がざらつく)」は訳されていない。NE5532も評価の高い、むしろ TL072から交換される候補でもあるようだが、こんな書き方は一種、殺し文句である。
加えて、オーレックスの初期の高価なCDPのアナログ送り出し部に使われていて、よい音場感を醸しだしているという評価もあり。われらが(すみません、勝手に^^;)《Headprops》さんのレヴューでも、派手さでなく、じっくり聴かせるタイプとのことで、いちどどうしても聴きたくなって、買って、聴いてみた。
‥‥結果は、拙宅での DAC1794-1.5ではあまり奏功しなかった。LPF部の LT1213を TL072に差し換えたわけだが、華やかさはなく、LT1213で絶妙に聴けた音の艶が消え、きわめて素っ気ない音になった。
室内楽もオーケストラも、かさかさの潤いのない音になり、たしかに、人工的な余韻などを全く付けない出音は「自然」ではあるが、それより LT1213の、やや人工的ともいえる艶と膨らみのほうが心地よい。
というわけで、AD827JN+LT1213という組み合わせが、いかに拙宅のシステム、私の嗜好にマッチしているかを再認識し、しばらくこれに固定で行くことに。
とはいえ、今回の TL072も、専門メーカーに長く使われてきたいいオペアンプだろう。国産の NJM4580Dみたいな感じだろうか。同じTIでも、OPA627などとの価格差はものすごく、このところの「アメリカのメジャーはオペアンプでいい商売してるなー」の印象を少し払拭した。
他方で、上の JOEMEEK社のような‘信念’があるいっぽうで、このところ試してきた、OP275、LM4562、LME49720、LT1213といった、‘その後’に開発されたオーディオ用オペアンプのすばらしさも、しっかりと味わわせてもらった。
なお、通常、8ピンDIPタイプのオペアンプには、ピンの方向性を指示する凹状の○印が上面に刻印されるほか、上部の片方(○印があるほう)に切り欠きも設けられているが、TL072CPには、切り欠きがない。この品種が開発されたころの8ピンDIPパッケージには、一般的に、なかったのだろうか。
AD827JN+LT1213のコンビに決まったところで、これからは手持ちのソフトをゆっくり聴くことにシフトしてゆきたい。
DAC1794-1.5を始動させた時から、それまでと違う鳴り方をしたのが、チョン・キョンファ+ラドゥ・ルプーの弾くフランクのヴァイオリン・ソナタ(英Decca 421 154-2)の、とくにルプーのピアノ。メーカー製CDPでは、どうも中域がボワンとした芯のない音だったけれど、DAC1794-1.5では、しっかりと実体 substance 感のある打鍵が聴ける。ヴァイオリンは、DP-5090や WSTA01では歪みっぽさが残存したが、聴きやすい音になっている。ただ、とくに味わいのある艶というものは出てこない。
このディスクは、ドビュッシーのソナタのほうをよく聴くが、フランクは久しぶりに全曲通して聴いた。
OP275+LME49720のコンビの時には、カラヤン/パリ管のフランク:交響曲(EMI)において、信じられないほどのディテールを発見させられた。
今回もオーケストラ。モントゥー/ロンドン交響楽団によるシベリウス:交響曲第2番(1959年録音。英Decca原盤、キングレコード、ハイパー・リマスタリング KICC 8491)は、DPF-3010でも何度かじっくり聴いたはずだが、今回は DPF-3010でのヒアリングとは比べものにならない情報量を、‘厚化粧’ではない、品位の高いレヴェルで聴くことができた。