ONKYO A-9010の英批評から、オーディオ文化を考える…
少し前に、eco人さんから、オンキヨーの新しいプリメイン・アンプ A-9010が、英国で音決めをしていて面白いのではないか、というコメントをいただいた。
調べてみると、ついこの間までオンキヨーの最安価帯のアナログ・アンプであった A-9050と全く同デザインで、出力・重量・平滑コンデンサー容量が減り、A-9050に付属するDACが省かれた、完全なコストダウン・バージョンのように見えて、食指をそそられることがなかったのだが、このアンプについてネット上を調べてゆくと、なかなか面白い情報が出てきた。

Eco人さんのコメントでは、英誌《What HiFi?》で五つ星をゲットしていることの指摘があった。
これに加えて、英オーディオ・ジャーナリズムの有名ライター(らしい人)たちの、かなり‘熱い’レビューが、数本ネット上で読める。
まず、こちら。《Topreview.com》というサイトだが、これは《Hi-Fi Choice》誌に掲載されたもののコピーらしく、執筆者・デイヴィッド・プライス David Price氏は、同誌の編集長だった人らしい。
そして、わが国でも有名な英《Gramophone》誌の、アンドルー・エヴァラード Andrew Everard氏によるレヴュー。
ご両人とも、日本のオーディオ・シーンには怠りなく目配りしている。
プライス氏は、「When I lived in Japan in the nineties, I was struck by how different the houses and apartments were – many use tatami mats …」と、'90年代に日本にいたことがあり、畳の住環境がアクースティック的にイギリスのそれと大きく異なる、云々と言っている。
そして、「… we suddenly saw a procession of Japanese-made budget amplifiers which were “tuned for British ears”. It was all the Pioneer A-400’s fault as I remember(… 日本製のロープライス・アンプが“イギリスで音作りしました”というのが目につきだしたのは、なべてパイオニアの A-400のせいである)」と、かのパイオニア A-UK3のオリジナル・A-400を挙げている。
面白いのは、グラモフォン誌のエヴァラード氏のレビューでも、「… I was amazed to find a display of the Pioneer A-400 at the Tokyo Audio Fair (of blessed memory), bedecked with British flags and pictures of the likes of The Beatles, London taxis and the Mini Cooper(… 東京のオーディオフェアで、パイオニア A-400が、英国旗や、ビートルズ、ロンドン・タクシー、ミニクーパーの写真などといっしょに飾られているのを見たのは楽しかった)」と、やはり A-400が引き合いに出されていることだ。
両人とも、日本のメーカーが連発する、‘イギリスでチューニング’、‘イギリス人の耳に合わせて’云々のコピーには、ちょっと苦笑ないし冷笑気味な論調でもある。
が、音質の評価は、かなりしっかりとリスニングされた上で、高い。
あともうひとつ、《Trusted Reviews》というサイトの、ダニー・フィリップス Danny Phillips氏によるレビュー がかなり長文だ。
ダニー・フィリップス氏は、見た目ちょいワルなおにいさんだが、この人もむこうのAV評論界では知られている人らしい。
とにかく、これほどのバジェットプライス・アンプが、こんなに、ある意味大げさに取り上げられるなど、日本ではありえない。
わが国での税込実勢価格は、28,000〜30,000円で、古い上級機の A-9050のほうが安く手に入る(欧米では販売終了のもよう)のだが、いずれにせよ、こんな‘安もの’に熱いレビューなど、プロのライターでも素人のマニアでも、考えられない。
面白いことは続いて、A-9010のサービスマニュアルがタダで手に入ってしまった。
これを見ると、A-9010は、機械的なパーツ、つまりボリューム(=VR、可変抵抗器)や切換えセレクターを一切使用せず、すべて新日本無線の電子セレクターICと電子ボリュームIC(トーンコンも)で、マイコンから操作する。
出力のリレーさえ省き(基板パターンは設けているよう)、トランジスターのミューティングで処理する。究極の接点追放設計なのである。
いっぽう、出力のアイソレーター・コイルは実装しているようで、これは最近の流れには逆行する。
メーカーのアピールでは、カップリングにニチコン FineGoldを使っているということだが、回路図ではさらに、パワーアンプの段間デカップリングとNFB回路の接地部には、エルナーの音響用・RA3が指定されている。
このアンプ、どんなパーフォーマンスを聴かせてくれるのだろう?
プライス氏にレビューの終わりのほうに、「… the Onkyo’s combination of bargain basement price and unalloyed sonic charm reminds me of the classic NAD 3020 of the late seventies(このオンキヨーの、ローコストの基礎と混じり気のない音の魅力の両立は、'70年代後半のクラシックだった NAD 3020を思い出させてくれる)」」とある。

ここで言及されている NAD 3020は、わが国ではブランドごと撤退してしまった NADの、画期的かつ伝説的ロープライス・プリメインアンプのことで、Wikipediaにもアップされている。
こちらには、スコットランドの音楽ファンの、NAD 3020にまつわる‘青春の思い出’と、現在も愛用していることが綴られている。
日本では、DENONの初代 PMA-390が若干これに近い足跡を残している感があるともいえるけれど、3020のようなローコスト・プリメインが、そもそも‘ちゃんとした’音楽ファンやオーディオ・ファンに見向きされることすら、ほぼないだろう。
― この辺、‘彼我’のオーディオ文化の差を考える、いいトピックだった。
A-9010についてご教示くださった eco人さんは、A-9010ではなく、EMF Audio Sequel 2を選ばれた。

Eco人さんは、A-UK3を長く愛用しつつも、音質の線の細さにガマンできなくなって買い替えを思い立ったとのこと。
じつは私も A-UK3には全く同じ不満を感じていて、手放したのだった。
過剰なまでにワイドレンジ(実際のf特が)を企図し、スピーカー出力から高周波スプラッターを撒き散らす A-UK3は、そのあたりを欧州のEMI(電磁波障害)規制ゆえに抑制しているはず(アイソレーター・コイルも入っているはず)の欧州版 A-400のほうが、落ち着いた音がしているような想像をする。YouTubeにアップされた A-400のギターの再生音は、とても美しい。
EMF Audio Sequel 2も興味ぶかいアンプで、マイク・クリーク設計のかつての名機・Creek 4240を、TSインターナショナル社長・延沢正幸氏が、マイク・クリーク氏に、4240の復刻を依嘱して実現したというものだが、4240より2万円以上も安いプリメインや、その開発エピソードに反応するオーディオ・ジャーナリズムなんか、この国にはない。
「EMF Audio」は、Creekの別ブランドという形になっているが、とくにカンパニーがあるわけではなさそうだ。
「Creek」は総代理店がハイ・ファイ・ジャパンなので、契約上 Creekが使えないので EMFを使用した、というところだろう。
残念ながら、Creek製品より仕上げはやはり落ちるようで、eco人さんのブログでは、新品を開梱したらタバコの臭いがした、というあたり、どうしても購買欲は削がれる…。
さて、NADとならんで日本に全く紹介されていないオーディオ・ブランドに、米ミュージックホール Music Hallというのがある。
普通名詞の「ミュージックホール」からブランド名を取ったと思っていたけれど、創設者・ロイ・ホール Roy Hall氏の名前に普通名詞を引っかけたものだ。
このメーカーのアンプもシンプルなデザインだ。Music Hallは英Creekの米国代理店もしているようだが、このブランド自体に、マイク・クリークが関わっていたことがあり、ホール氏とクリーク氏は昵懇の仲のようだ。
少し前に、eco人さんから、オンキヨーの新しいプリメイン・アンプ A-9010が、英国で音決めをしていて面白いのではないか、というコメントをいただいた。
調べてみると、ついこの間までオンキヨーの最安価帯のアナログ・アンプであった A-9050と全く同デザインで、出力・重量・平滑コンデンサー容量が減り、A-9050に付属するDACが省かれた、完全なコストダウン・バージョンのように見えて、食指をそそられることがなかったのだが、このアンプについてネット上を調べてゆくと、なかなか面白い情報が出てきた。

Eco人さんのコメントでは、英誌《What HiFi?》で五つ星をゲットしていることの指摘があった。
これに加えて、英オーディオ・ジャーナリズムの有名ライター(らしい人)たちの、かなり‘熱い’レビューが、数本ネット上で読める。
まず、こちら。《Topreview.com》というサイトだが、これは《Hi-Fi Choice》誌に掲載されたもののコピーらしく、執筆者・デイヴィッド・プライス David Price氏は、同誌の編集長だった人らしい。
そして、わが国でも有名な英《Gramophone》誌の、アンドルー・エヴァラード Andrew Everard氏によるレヴュー。
ご両人とも、日本のオーディオ・シーンには怠りなく目配りしている。
プライス氏は、「When I lived in Japan in the nineties, I was struck by how different the houses and apartments were – many use tatami mats …」と、'90年代に日本にいたことがあり、畳の住環境がアクースティック的にイギリスのそれと大きく異なる、云々と言っている。
そして、「… we suddenly saw a procession of Japanese-made budget amplifiers which were “tuned for British ears”. It was all the Pioneer A-400’s fault as I remember(… 日本製のロープライス・アンプが“イギリスで音作りしました”というのが目につきだしたのは、なべてパイオニアの A-400のせいである)」と、かのパイオニア A-UK3のオリジナル・A-400を挙げている。
面白いのは、グラモフォン誌のエヴァラード氏のレビューでも、「… I was amazed to find a display of the Pioneer A-400 at the Tokyo Audio Fair (of blessed memory), bedecked with British flags and pictures of the likes of The Beatles, London taxis and the Mini Cooper(… 東京のオーディオフェアで、パイオニア A-400が、英国旗や、ビートルズ、ロンドン・タクシー、ミニクーパーの写真などといっしょに飾られているのを見たのは楽しかった)」と、やはり A-400が引き合いに出されていることだ。
両人とも、日本のメーカーが連発する、‘イギリスでチューニング’、‘イギリス人の耳に合わせて’云々のコピーには、ちょっと苦笑ないし冷笑気味な論調でもある。
が、音質の評価は、かなりしっかりとリスニングされた上で、高い。
あともうひとつ、《Trusted Reviews》というサイトの、ダニー・フィリップス Danny Phillips氏によるレビュー がかなり長文だ。
ダニー・フィリップス氏は、見た目ちょいワルなおにいさんだが、この人もむこうのAV評論界では知られている人らしい。
とにかく、これほどのバジェットプライス・アンプが、こんなに、ある意味大げさに取り上げられるなど、日本ではありえない。
わが国での税込実勢価格は、28,000〜30,000円で、古い上級機の A-9050のほうが安く手に入る(欧米では販売終了のもよう)のだが、いずれにせよ、こんな‘安もの’に熱いレビューなど、プロのライターでも素人のマニアでも、考えられない。
面白いことは続いて、A-9010のサービスマニュアルがタダで手に入ってしまった。
これを見ると、A-9010は、機械的なパーツ、つまりボリューム(=VR、可変抵抗器)や切換えセレクターを一切使用せず、すべて新日本無線の電子セレクターICと電子ボリュームIC(トーンコンも)で、マイコンから操作する。
出力のリレーさえ省き(基板パターンは設けているよう)、トランジスターのミューティングで処理する。究極の接点追放設計なのである。
いっぽう、出力のアイソレーター・コイルは実装しているようで、これは最近の流れには逆行する。
メーカーのアピールでは、カップリングにニチコン FineGoldを使っているということだが、回路図ではさらに、パワーアンプの段間デカップリングとNFB回路の接地部には、エルナーの音響用・RA3が指定されている。
このアンプ、どんなパーフォーマンスを聴かせてくれるのだろう?
プライス氏にレビューの終わりのほうに、「… the Onkyo’s combination of bargain basement price and unalloyed sonic charm reminds me of the classic NAD 3020 of the late seventies(このオンキヨーの、ローコストの基礎と混じり気のない音の魅力の両立は、'70年代後半のクラシックだった NAD 3020を思い出させてくれる)」」とある。

ここで言及されている NAD 3020は、わが国ではブランドごと撤退してしまった NADの、画期的かつ伝説的ロープライス・プリメインアンプのことで、Wikipediaにもアップされている。
こちらには、スコットランドの音楽ファンの、NAD 3020にまつわる‘青春の思い出’と、現在も愛用していることが綴られている。
日本では、DENONの初代 PMA-390が若干これに近い足跡を残している感があるともいえるけれど、3020のようなローコスト・プリメインが、そもそも‘ちゃんとした’音楽ファンやオーディオ・ファンに見向きされることすら、ほぼないだろう。
― この辺、‘彼我’のオーディオ文化の差を考える、いいトピックだった。
A-9010についてご教示くださった eco人さんは、A-9010ではなく、EMF Audio Sequel 2を選ばれた。

Eco人さんは、A-UK3を長く愛用しつつも、音質の線の細さにガマンできなくなって買い替えを思い立ったとのこと。
じつは私も A-UK3には全く同じ不満を感じていて、手放したのだった。
過剰なまでにワイドレンジ(実際のf特が)を企図し、スピーカー出力から高周波スプラッターを撒き散らす A-UK3は、そのあたりを欧州のEMI(電磁波障害)規制ゆえに抑制しているはず(アイソレーター・コイルも入っているはず)の欧州版 A-400のほうが、落ち着いた音がしているような想像をする。YouTubeにアップされた A-400のギターの再生音は、とても美しい。
EMF Audio Sequel 2も興味ぶかいアンプで、マイク・クリーク設計のかつての名機・Creek 4240を、TSインターナショナル社長・延沢正幸氏が、マイク・クリーク氏に、4240の復刻を依嘱して実現したというものだが、4240より2万円以上も安いプリメインや、その開発エピソードに反応するオーディオ・ジャーナリズムなんか、この国にはない。
「EMF Audio」は、Creekの別ブランドという形になっているが、とくにカンパニーがあるわけではなさそうだ。
「Creek」は総代理店がハイ・ファイ・ジャパンなので、契約上 Creekが使えないので EMFを使用した、というところだろう。
残念ながら、Creek製品より仕上げはやはり落ちるようで、eco人さんのブログでは、新品を開梱したらタバコの臭いがした、というあたり、どうしても購買欲は削がれる…。
さて、NADとならんで日本に全く紹介されていないオーディオ・ブランドに、米ミュージックホール Music Hallというのがある。
普通名詞の「ミュージックホール」からブランド名を取ったと思っていたけれど、創設者・ロイ・ホール Roy Hall氏の名前に普通名詞を引っかけたものだ。
このメーカーのアンプもシンプルなデザインだ。Music Hallは英Creekの米国代理店もしているようだが、このブランド自体に、マイク・クリークが関わっていたことがあり、ホール氏とクリーク氏は昵懇の仲のようだ。