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『クラシックCDの名盤 演奏家篇』 私注〔1〕

『クラシックCDの名盤 演奏家篇』私注〔1〕〜 トスカニーニ

 宇野功芳、中野 雄、禿臂篭魁愎携 クラシックCDの名盤』(文春新書)に、少しょう いちゃもん(ただし誠実な、ですよ! )を付けたのをキッカケ(?)に、『同 演奏家篇』に取り上げられている演奏家の中から、勝手にピックアップ(私がディスクを1枚も持っていない演奏家も多いので^^;)して、勝手に書いてゆく。

 同書のトップはアルトゥーロ・トスカニーニ。宇野氏、中野氏は、トスカニーニの練習時の楽員に対する罵声に触れる。宇野さんは昔からこの話をいろいろなところに書いていて、FMで少し聴いたトスカニーニの演奏と合わせて、私は彼が大キライになった。
 CD時代になり、英Testamentがフィルハーモニア管とのブラームス全集を復刻したり、この『演奏家篇』で禿腓気鵑大推薦しているステレオのファイナル・コンサートがリリースされたり、で、買ってはみた。ところが、買って数週間後(レシートはどこかへ^^)にじっくり聴こうとしたら、両盤ともトラブっていた! Testamentのブラームスは、1枚の信号面に大きなゴミがプレス時に混入して音にノイズが出た。M&Aレーベルのファイナル・コンサートは、盤面は目で見ての問題はないが、1ヵ所ノイズが入る。持っている人に聞くと、そのノイズはないと言う。
 みごとに、‘意味のある(偶然の)一致= Meaningful Coincidence’ だ。私の潜在意識に淀むトスカニーニ嫌いが、キズのあるディスクを選ばせたとしか思えない。2点は売るわけにもいかず、廃棄した。トスカニーニとの‘ご縁’は悪いことがハッキリしたので、もう2度と彼のディスクは買わないだろう。レスピーギの三部作(BMG/RCA)も持っていたが、こちらは曲がつまらないと感じて手放した。

『トスカニーニ 〜愛と情熱の日々』 ヘラルド・ネルソン HAV-1006 そんな次第だったが、『新潮45別冊 A・NO・YO』(2006年12月)に、江原啓之氏が薦める「スピリチュアルムービーベスト10」の中に、フランコ・ゼフィレッリ監督の『トスカニーニ 〜愛と情熱の日々 Young Toscanini』(1988年、伊/仏)があった。Amazonのマーケットプレイスには(しばしば絶版品が超-法外な高価で出品されるが)江原センセイのお導きか^^、格安の中古VHSが出ており、衝動買いしたら、レンタル落ちのシールも貼られていない美品だった。画質はさすがに古いVHSで劣化していたが、すぐ通して観てしまった。
 作品に描かれているように、トスカニーニがブラジルの奴隷制廃止に与って力があったかどうか、江原氏は史実とするが、どうなのだろう? しかし映画としては美しいし後味もいい。‘さすがゼフィレッリ’とは、映画には全く暗い私には書けないのだが、こんなのを推すあたり、毀誉褒貶のある江原氏を、基本的には悪く思えない理由でもある。

 楽員を罵る指揮者、それはトスカニーニのみならず、新大陸で大オーケストラを育てたマエストロたちに共通するところであることを、中野氏などはしばしば書いている。私は、そういう伝承の残る人は、トスカニーニだけでなく、ジョージ・セルにしてもフリッツ・ライナーにしても、キライなほうだ。演奏そのものを聴いて、一部の‘特選盤’しか聴きたくない。
 楽員に対してジェントルに振る舞う話の残る、カルロ・マリア・ジュリーニなどのほうが、その音楽からしてもずっと好きだ。

 ― というわけで、トスカニーニの録音に関してはよくない出会いをし、書くこともなく、キライな指揮者、というだけなのだが、彼の、スコアに対しても楽員に対しても厳格極まりなかった姿勢は、演奏史に一画期をもたらしたとして高い歴史的評価を受けており、これは認めざるをえない。
 そこで何を言いたいのか、といえば、わが国のオーディオやレコードの、業界/市場ともどもの衰退ぶりは、わが国のこの世界の、設計/制作者・批評家・愛好家のいずれにも、トスカニーニがいなかったからだ!! ということなのである。

 私は、オーディオ機器とはあまり幸せな出会いを経験していないためか、個々の機器に対しても、メーカーに対しても、またオーディオ・ジャーナリズムに対してはさらにキツい感情を持っている。レコードに関してはさらに、「音の悪い‘国内盤’を、どうして強要されてきたのか! 」という恨みがある。評論家諸氏は‘業界の外部営業部隊(傭兵)’みたいなものだから、とガマンしても、最近のオーディオ・ファンのネット上の記事をみたりすると、‘ブランド礼讃’が過ぎるのでは、と思えるものも多い(あ、私がコメントでお邪魔する方はその範囲外^^;)。

中野英男『音楽、オーディオ、人びと』音楽之友社 そんな中で、読み返すたびに痛快な過激さを覚える行文がある。オーディオ・メーカー、トリオの創業者・中野英男氏には、エッセイ『音楽、オーディオ、人びと』(音楽之友社、1982年。Amazonの マーケットプレイス古書 は、今のところ妥当な古書価だ)があるが、この中の「音と心について」の章に、夭折した天才女流チェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレの弾くベートーヴェンのソナタ全集のレコードに関する一節がある。
 エディンバラ音楽祭のライヴ録音ということで、それに触れつつ書き出しているが、想い出の部分を端折って、少し引用させてもらおう ― 。
 つい先頃、私はかねがね愛してやまない若き女流チェリスト ― ジャクリーヌ・デュ・プレのベートーヴェンのチェロ・ソナタ全曲演奏のレコードを手にした。(中略)しかし、デュ・プレのエジンバラ・コンサートの演奏を収めた日本プレスのレコードは私を失望させた。演奏の良否を論ずる前に、デュ・プレのチェロの音が荒寥たる乾き切った音だったからである。私は第三番の冒頭、十数小節を聴いただけで針を上げ、アルバムを閉じた。
 数日後、役員の一人がEMIの輸入盤で同じレコードを持参した。彼の目を見た途端、私は「彼はこのレコードにいかれているな」と直感した。そして私自身もこのレコードに陶酔し一気に全曲を聴き通してしまった。同じ演奏のレコードである。年甲斐もなく、私は先に手に入れたアルバムを二階の窓から庭に投げ捨てた。私はジャクリーヌ・デュ・プレ ― カザルス、フルニエを継ぐべき才能を持ちながら、不治の病に冒され、永遠に引退せざるをえなくなった少女デュ・プレが可哀そうでならなかった。緑の芝生に散らばったレコードを見ながら、私は胸が張り裂ける思いであった。こんなレコードを作ってはいけない。何故デュ・プレのチェロをこんな音にしてしまったのか。日本の愛好家は、九九%までこの国内盤を通して彼女の音楽を聴くだろう。バレンボイムのピアノも ― 。(97〜98頁)
 ― 何と率直な、そして誠実な、レコードの音質への直言だろう。こんな過激な表現は、かつて一人のオーディオ評論家、音楽評論家も、ものした例しはないだろう。同業とはややズレるとはいえ、東芝EMIのレコード作りを、ハッキリと批判し、リスナーとしての感情を吐露している。
 中野氏と親交のあった、オーディオ評論家、瀬川冬樹氏も海外盤愛好者だったし(『虚構世界の狩人』共同通信社、1980年)、‘派’は異なるが長岡鉄男氏もそうだったが、これほどの過激な体験の告白はあっただろうか?
 長く‘国内盤’LPの音を聴かされてきた私にも、通ずる思いがある。そして今また、CDのマスタリング/リマスタリングで「なんでこんな音!? …」の想いを重ねる私たちではないのか。「こんなレコードを作ってはいけない。」 ― このことばの重みを、ディスクやオーディオ機器を作る人々は、噛みしめるべきだ。そして、私たち、ファン、リスナーも、である。

 オーディオ・メーカーとしてのトリオ/ケンウッドには、私は当初、LS-330というスピーカーで、そうとうひどくキツい音を聴かされ、失望した。その後、同社が単品オーディオ機器をリリースする最末期が近づいたころに、安価なCDプレーヤー、DPF-3010に触れ、これは存外に秀逸で、もう9年間、愛用している。同社の代表的機器は、歴史に残るものとしてはKPシリーズのレコード・プレーヤーだろうけれど、私はこのグレードの装置をついに求めえなかったので、同社のエッセンスには無縁の者かもしれない。

 ‘トスカニーニ’から脱線してしまったけれども、私は、トスカニーニの‘罵声伝説’は不快に感じるが、中野英男氏の述べた真情には、強く共感する。この本は、オーディオ・ファンには、今こそ読んでいただきたい、と思うのだが。

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  • 2017.03.17 Friday
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  • 20:59
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コメント
これは、主張の明快な良い本でした。繰り返し読みました。同族の春日二郎氏(アキュフェーズ会長)の『オーディオ昨日今日明日』(文芸社)は、お読みになりましたか。中野氏のような主張型の文章ではなく、業界の時代ごとの情報集成的な内容ですが、内部の人にしかわからないことが書かれていて、これはこれで別の面白さがあります。
  • たっちん
  • 2008/12/12 4:25 AM
たっちんさん、どうも。

この本を愛読された方がいらっしゃるのは心強い、というより私よりずっと早く読んでおられるような(汗)。
春日さんのは、読んでいません。たぶん、アキュフェーズ・ブランドというものが、私には生涯完璧に無縁だという先入主が居座っていた(今も^^)からでしょう。

無縁、のはずでしたけれど、十数年前、粗大ゴミに出されて雨ざらしになっている C-200(http://www.audio-heritage.jp/ACCUPHASE/amp/c-200.html )(だと記憶^^)を拾ったことがあります。ACコードと筐体アースの絶縁などを確認後、当時使っていたキットの管球プリ(左右で音が違った^^;)と入れ換えると、定位などは自作品と異なりビシーっと決まるものの、音質がソフト過ぎて曇った感じがして気に入らず、行きつけの喫茶店に送り、数年使ってもらいました…。あれ、違うハナシに^^ゞ。
  • へうたむ/Bluegourd
  • 2008/12/15 3:38 AM
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